バックハンドには片手打ちと両手打ちがある
「テニスのバックハンドで片手打ちと両手打ちどっちがいいですか?」
よく言われる質問です。
様々なやりとりを見ていれば、大体同様の結論になるようです。
結論の前に片手バックと両手バックの主な特徴や欠点を上げてみます。
(すいません。私が片手バックなので片手を先に書きます。)
片手バック
[特徴]
・打点と距離が取れるので両手バック程ボールに近づかなくても打てる。(従って足が遅い人は片手バックの方がやりやすい?)
・片手で打つ事が多いスライスやボレーとの連動がしやすい。
・単純に片手バックで打てるとかっこいい。
[欠点]
・タイミングやボールとの距離感等、感覚面の習得が難しい。
・他ショットと体の使い方に共通点が少なく完全にゼロからの習得になる。
・高い打点で力を入れづらい。
・強いボール、強いスピンを打つには更にコツが必要。
・片手バックを打つ指導者は圧倒的に少ない。コーチも片手バックを指導する経験が少ないので他ショットに比べて教えるノウハウが少ない。初心者を0から1に引き上げる事が難しい。
・周りに片手バックをマスターしている人が少ないので参考にしづらい。
両手バック
[特徴]
・非利き手でのフォアハンドに利き手を添えた形で打てるので圧倒的に感覚がつかみやすい。(両手で持つのでバッティングやゴルフスイングのイメージでも)
・高い打点でも力を入れやすい。
・指導者や周りに参考になる人に事欠かない。
・基礎ができやすいので、シンプルに残りの時間を技術の成熟に当てられる。
[欠点]
・懐が狭い分、片手バックよりも更に1歩ボールに近づく必要があり、フットワークをおろそかにできない。しっかり打つには体の強さ、足の速さが必要となる。
・スライスやボレー等、片手で打つ技術も結局必要。
こう並べると一目瞭然ですが、シンプルに片手バックの方が技術的に習得が難しい上に、初心者に片手バックをきちんと指導できるノウハウに触れる機会が少なかったり、周りに参考にしたり相談したりできる人が少ない等が大きいです。
両手バックの方は、感覚的に習得しやすい分、慣れたら、後は技術の成熟に全ての時間を使えるのが大きいです。周りに参考にできる人、相談できる人にも事欠かないでしょう。
結論: 早く習得して打てるようになりたいなら両手バックを選んで下さい。片手バックは単純に難しく両手と同じ時間で同じように打てるようになる事はまずありません。両手バックの方が速く習得でき以降の時間を上達に当てられます。(自分は運動得意だから大丈夫とか思わないほうが幸せになれます。)
個人的な意見を色々
以下は個人的な意見を色々書きます。
スクールに通い始めた初心者の方だと、かっこいからと片手バックをやりたいという方(ほぼ男性)がいますが、両手バックが1年である程度打てるようになるとしたら片手バックは3年経っても満足に打てない事はざらなので、上達しなくてもめげない人でも「シンプルに習得しやすいのは両手」という大前提は覆りません。
時々「両手バックがうまく打てない。この間、片手バックで打ってみたらいい感じだったので片手に変えてみたい」という方がいますが、両手バックを打てない人が片手バックをいきなり打てるようになる事は殆どないので、「隣の芝生は青い」でそれまでの何倍も苦労するのは目に見えています。マスターできるかさえ怪しい片手に興味を持つより習得が楽な両手に注力すべきです。
ちなみに、スクールで習っている片手バックの方の多くは振りきれず構えて当てるだけの「なんちゃって片手バック」だったりします。
片手バックはしっかり振り切ることで回転量やボールの威力を出すので振りきれない時点で未完成で、片手バック志望者はバックハンドスライスあたりから入るのでその延長で取り敢えず当てるだけになりがちです。
振り切ることを覚えられなかったらそこで上達は止まります。
「振り切れる」自信って難しいんですよね。振り切る = 大振りな印象で「うまく当たらない」ようい思ってしまう。ついつい「おっかなびっくりで当てるだけの打ち方」で留まってしまう。でもそれだとずっとそのままです。
私自身、テニスを始めてから10年以上片手バックに取り組んでいますが、ようやく感覚が掴めてきたのはここ2年位です。(それでも全然未完成)
よほど片手バックを教えるノウハウをお持ちのコーチから教わるのでもなければスクール等で片手バックを教えてもらおうというのはスクールには申し訳ないのですが「現実性の薄い期待」だと思います。
※スクールに関するごく個人的な見解 ※
スクールは教わる所ではなく自分の技術を確認する所だと思います。人数も多く時間も限られる中では教える事よりボールを打たせる体験を優先せざるを得ません。両手バックは自分でも感覚が掴めやすく、片手バックは自分では感覚が掴みにくい。自分でマスターせざるを得ないなら習得しやすい両手が有利となります。
次に、よく話題にあがる「両手バックの方が片手バックよりも強いボールが打てる」という点についてですが、個人的にはこれも少し違うかなと思います。
前述の通り、スイングスピードに限れば片手バックの方がかなり速いです。
両手で持つから力が入るイメージでしょうが、両手バックのメリットは強いボールにも打ち負けない事と、相手のボールの威力を使って打ち返す事で、自分から打っていくボールなら片手バックの方が威力は出せると思います。
また、スクールで教わるレベルなら、片手バックと両手バックではボールの威力にはほとんど差は生じないでしょう。
このレベルで打ち合いに差が生じるのは単純に「打ち方をマスターしているかどうか」でしょうか。スクールで同レベルの人がバックで打ち合えば技術をマスターしている度合いの低いであろう片手バックの方が不利なのは当然です。
動画: 理想的なバックハンド
【みんラボ】理想的な片手バックハンド
参考までにいつも拝見しているみんラボさんの動画です。
中学生の女子選手の方の片手バックハンドですが、体や手首の柔らかさがあるのでしょうが、細い体ながらボールに力を伝えるのがものすごく上手いと思います。
インパクトで骨盤が打球方向を向いてバッティングで言う「腰が入った状態」になっていますね。
リラックスしていないと腕は速く鋭く振れませんし腕力に頼らず300g近くあるラケットを片手で鋭く振っていくにはこういう打ち方がよいのだろうと思います。(野球やゴルフの素振りも腕の力に頼るとブレブレになりますから。)
ちなみに、片手バックを打つコーチは40代以上が多い印象なので、横向きキープのまま効き腕を前に伸ばしていくクラシックな打ち方も多いかもしれません。その辺りの違いも習得の壁になりそうです。
世の中には片手バックの打ち方を説明した情報が色々あります。コツと言われる「体の横向きキープ」「体を開かない」「左手を残す」「打点は前」等々ですが、これらは習得済みの方には「言われれば確かに当てはまる」と思う点かもしれませんが、『そもそもどうやって打つのかといった基本的なメカニズムというより、感覚的な「コツ」を列挙した説明なので、初心者がそれを実践しても感覚をつかむことすら大変』です。
初心者を「0から1に引き上げる」ためには、もっと基礎的な「そもそも」を解説してくれる環境が必要な気がしますがそういう情報も得られないのが片手バック (というかテニス全体の) 現状だと思います。
長くなりましたが、最後に、参考にさせていただいている「Essential Tennis.com」さんの動画で「片手と両手どっちがいい?」という質問に対するプロお二人のやりとりの動画が載っていたので紹介します。
動画: 片手バックハンド vs 両手バックハンド
Which is Better: One Hander or Two Hander?
恒例の企画で、お二人がそれぞれの立場になり8分間で討論するものです。
右のIANさんは普段から片手バックなので「感覚的な面からも片手バックの方が好き」と片手バックを推す派、向かって左のIRAさんは、「テニスは常にポジションとミスをしない事が大事、より簡単な両手バックの方がいいはず」と両手バックを推す派です。『両手バックの方が威力がある』という話題にも、IANさんは「ワウリンカ選手みたいな例もあるじゃん」と引きません。お二人共、両手バックの方が簡単という認識では一致しているものの、好みや考え方では違いが出ていて面白いやりとりでした。
2017年1月追記
その後、片手バックハンドと両手バックハンドの違いに関する私の認識はだいぶ変わりました。
身体の利き腕でない側で打つという共通点がある以上、片手打ち/両手打ちで身体の使い方で共通する部分が少なからずあるはずで、それに注目せず、片手・両手と全く別のものとして教える、教わることに疑問を感じるようになりました。
例えば、両手打ちは非利き手のフォアの要領で打つと言われますが、テイクバックの速度ゼロからインパクト前後の最高速までラケットを加速させるのは片手打ちと同様の「利き手の引き」だろうと考えます。
2020年12月追記:新ブログ記事 – 片手打ちバックハンド「腕を振って飛ばす」のではない飛ばし方のインストール
片手打ちバックハンドはその導入、「ボールを打つ」スタートラインに立つまでが難しい。そこが「ボールを打つ」所から始められる両手打ちバックハンドとの大きな違い。
かといって、バックハンドという打ち方があるのは『必要だから』であり、フォアハンドと同等に “自信” を持って打てるまでに至っていないなら片手も両手も関係ない。打てない段階の片手打ちと比べて「両手打ちの方が上」と言いつつ「バックハンドで打ちたくない」から常にフォアで打とうとする矛盾。
男子の世界ランク上位に片手打ちバックハンドを使うメンバーが増え、片手打ちバックハンドに対する否定の声が収まり、若手選手にも片手打ちが目立つようになった2020年。
改めて、片手打ちバックハンドの導入に役立ちそうな「腕を振って飛ばす」のではない飛ばし方のインストールについて考えてみました。
- 関連記事:片手打ちバックハンドはどう始める? 『振らない』飛ばし方のインストール [後編] (テニス)
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この5年前のブログよりだいぶ更新された内容になっていますので何かの参考になればと思います。