サーブを打つ際に理解すべきだろう事柄
サーブを打つ際に必要であろう事柄はたくさんあると思います。一般に言われる注意点やコツと言われるものまで様々です。でも、私は「〇〇をすればサーブが(テニスが)良くなる」という話が好きではないです。
サーブを打つたびに複数の注意点に気を付けて打つのは無理ですし、「そのコツをやらないとうまく打てない」のなら多分それは皆にはできません。理屈を理解し都度考えなくても出来るようになるものが『皆ができる"サーブを打つ方法"』であると思っています。
サーブにおいて基本となるべき事柄でもたくさんあるでしょうが、最近思う3つのことを1つずつ考えてみたいと思います。
最初は『腕とラケットの角度』についてです。
これはグリップ、サーブを打つ際の腕とラケットの関係性に関わる部分です。
サーブにおける腕とラケットの角度
サーブにおいてはコンチネンタルグリップ等のいわゆる"薄い"グリップで握るように教わります。ただ、今回取り上げるのは、コンチネンタル、イースタンといった一般に言われる握り方ではなく『ラケットを握った際にグリップが手の平に触れている角度』と『スイングする際にラケットと腕(前腕)の角度』の組みあわせのことです。
サーブのインパクトにおける腕とラケットのイメージ
サーブでボールを打つ瞬間(インパクト)における腕とラケットの角度や位置関係は下の図のように 『腕とラケットが一直線になった』イメージだと思います。
なお、グリップの厚さにより打点の位置が前後するため、正面から見れば腕とラケットが一直線でも、横から見た場合の腕とラケットの角度や位置関係は違ってきます。
私は『この一般的なインパクトのイメージとされる腕とラケットが一直線になる状態では効率的で速度や回転量のあるサーブを打つことは難しい』と思っています。
理由は『ラケットでボールを打つ際に"腕とラケットには角度が必要"』で『角度がなくなってしまうのは人がそうしようと操作するから』です。
この点について考えていきます。
サーブのコツだと言われる"プロネーション"
サーブのコツとして「プロネーションを使えばサーブの威力が上がる」とよく言われます。
腕のプロネーションとは『前腕(肘と手首の間)にある2本の腕が捻じれることで腕が回転する動き』です。
「手首の関節が回っている」と考えてしまうのは誤りです。
インパクト直前から腕とラケットが一直線になった状態でプロネーションを行う
プロネーションでラケット面がボールを向いていく?
上で触れたような "一般に認識されるインパクトの形"、つまり、"ボールとラケットが触れる前後に腕とラケットが一直線に近くなった状態"でプロネーションが行われるなら下の図のようにラケットの中心を軸にラケット面がクルクルと回るだけです。
プロネーションについて調べたことがある方はこのことが分かると思います。
これを見て「サーブを打つ際、薄いグリップで打つなら、ラケットは小指側のフレームからボールに近づいていく。ボールを打つためにはラケット面をボールに向ける必要がある。このラケット面をボールに向ける役割を担うのがプロネーションだ」と思う方もいると思います。もちろん『ラケット面がボールを向く』というのもプロネーションの役割です。
ただ、一般に言われる「プロネーションを使えばサーブの威力が上がる」というニュアンスからして"中心線を軸にラケット面が90度ほどくるっと回るだけでボールの速度や回転量が増える"と思えるでしょうか?
プロネーションの説明に合わせプロネーションが物理的にどう作用しボールに影響を与えるかが説明されることがない
サーブにおけるプロネーションの説明に"プロネーションがラケットスイングにどう作用しそれを行うことで何が変わるのか、ボールにどういった効果を生むのか" といった情報が含まれていることはまずありません。
「プロネーションを使えばラケットスピードが上がる。振りぬきがよくなる。だからプロネーションを使うべきだ。」
聞きたいのは何故そういうことが起きるかその理屈です。
そうなる理由も説明せずに "とにかく効果があるからやるべきだ" と言うのは乱暴すぎますよね。
プロネーションを使えばラケットスピードが上がる?
因みに厚いグリップで打つように薄いグリップでも最初からラケット面をボールに向けてスイングすることは可能です。
ただ、それだとラケットスピードが上がりません。
「このためフレームからボールに向かわせプロネーションによりラケット面を向ける。その速度が上がりやすい点がプロネーションを使う意味になるのだ」と言うなら、それは「プロネーションではなく、スイング開始時にスピネーションが起こる反動で腕の捻じれが戻っているもの」だと考えます。
ラケットに働く慣性の法則の影響
トロフィーポーズからラケットをスイングする際、物体であるラケットには慣性の法則が働きます。
手に引かれて動き出すグリップ側に対し、ヘッド側は慣性の法則でその場に留まろうとするので、グリップ側から引かれてラケットは動いていくもののヘッド側がその場に留まろうとする力はグリップを引く手をスイング方向と逆方向に引っ張り続けます。
結果起きるのが"ラケットの方向の切替え"であり、"ラケットダウン"と呼ばれる状態です。
※ラケットを引く手がスイング方向の真後ろから引っ張られていると考えればこの状態は理解できます。
サーブのスイング開始時にラケットが小指側のフレームからボールに向かうのは、トロフィーポーズでニュートラル位置にある前腕がスイング開始時にその場に留まろうとするラケットヘッド側に引っ張られることでプロネーションと逆向きの"スピネーション方向に捻じれる"要素があるからです。
手を引く力とラケットを引く手の力が組み合わさってスピネーションは強くなり、そのねじれがスイング中にニュートラルに戻っていく動きによりラケット面はボールに向いていきます。
一般にサーブのコツとしてプロネーションが言われる際は、このスピネーションによる初期の捻じれがスイング開始によってニュートラル位置に戻ってボールにラケット面が向いた状態から "更に回転しスイング開始時とは逆向きのフレームが地面を向く位にラケットが回転する" というイメージでしょう。
結局、一般に言われるプロネーションの説明では、インパクト付近で腕とラケットが一直線に近い状態でラケットの中心線を軸にラケット面がクルクル回るという理解を超えることができないと私は思います。
ここまででの確認
インパクトの直前に前腕のプロネーションが自然に起きる、或いは人が意図的に起こすとして『腕とラケットが一直線な状態ではラケットの中心線を軸にラケット面が回転するだけだ』と確認できました。
では、腕とラケットに角度があれば何が変わるのか?
下の図を見てください。
直立状態でラケットを持った腕を水平方向に伸ばし、腕とラケットを一直線に近い状態でスピネーション・プロネーションにより前腕を捻じるとやはりラケットはその中心線を軸にクルクルと回転します。
次に腕とラケットに角度を設けて同じ状態で腕を伸ばします。
ラケットヘッドが上を向いた状態で同じように前腕を捻じるとこうなります。
違いが分かるでしょうか?
全く同じ動きで前腕を捻じっているだけなのに腕とラケットに角度を設けるだけでラケット面の移動距離が格段に大きくなるのが分かります。
『棒の回転により棒の先端に付いた物体がクルクル回る』状態と『軸から距離がある位置に物体があり、棒の回転に伴い棒の周りを回っていく』状態といった違いがあるからです。
これをサーブのスイングに当てはまると...
トロフィーポーズからのスイング開始時のスピネーションによって、小指側のフレームからラケットがボールに向かうとして、
1)腕とラケットが一直線に近くなるスイングでは、肩を中心とした回転軸で腕とラケットは一つの棒のように一体となって直線的にボールに向かっていく。
2)前腕とラケットに角度がある場合、腕は肩を軸とした回転でボールに向かっていくのは同じでも、腕の回転軸とは90度近くズレた(前腕を中心とした)回転軸でラケットヘッドは動いていきます。
1で、インパクト付近で腕とラケットが一直線に近い状態にある時に稼働しているのは肩の関節ですが、同じ進行方向に腕が動く"上腕の外旋・内旋の動き"だとするなら、2ではこれに前腕のプロネーションの動きが加わる形です。
フェデラー選手のサーブを見ても腕とラケットは一直線にならず、腕とラケットに角度が残っているために前腕のラインよりも手前側をラケットヘッドが通っているのが分かります。
※腕と肩の位置関係も見てほしいのですが、体の回転に合わせて上腕も動いていて回転する中でも上腕の位置は肩の延長線上から動きません。つまり腕を動かして利き腕の肩の腕で腕を振っているのではなく、腕は体の回転についていっているだけだということです。サーブを打つ際、体を回転させて正面を向けた状態で、利き腕の肩の上を背中側からお腹側へまっすぐ腕を動かしてラケットを振るイメージの方が多いと思いますが、それでは腕の動きだけでラケットを振っているということです。ピッチャーの投球を見てもそういった腕の振り方はしない。つまり、そういう腕の振り方では速く力強く振れないということです。次回以降でこの点に触れます。
腕とラケットに角度があることでプロネーションによりラケットの動く距離が長くなるということ
スイングにおけるラケットの移動距離が長くなることはラケットが加速しづらくなる (大きなテイクバックから大きなスイングをしようとするのと同じ) 要素ですが、今回の場合、ラケットと腕の角度の違いに関わらずスイング開始からフォロースルーまでの腕の動く距離に違いはないので、ラケットが大きく動くようになる割にラケットスピードを上げるプレイヤーの負荷は大きくないと言えます。逆に、腕とラケットに角度があることでラケットを支えやすくなり、スピネーションからのプロネーションでラケットを加速させやすくなると考えられます。
前腕とラケットに角度があるという事は他のショットでも言われていることである
ボレーの例
ボレーを教わる際に「ラケットヘッドを立てろ」「ラケットヘッドを寝かせてはダメだ」と言われると思います。
これも腕とラケットが一直線になるように握る或いは打点の位置を取ると手や腕でラケット面を支える力が弱くなってしまうためです。
ボレーはスイングできないので、ラケット面を支えることができないとボールの飛びに直結してしまいます。
逆に地面スレスレに落ちてきたボールをすくい上げて打つ場合は遠くまで飛ばす必要もないし、ネットを越すために上に向きにボールを持ち上げないといけないわけですからラケットをしっかり支えるよりもボールを拾える柔軟さを優先して構わないのでラケットヘッドが下がってもいいという事になります。(その点疑問に思う方は多いでしょう。)
ストロークの例
フォアハンドを打つ際、殆どの人は厚いと言われるグリップで打ちますから認識がないかもしれませんが、厚いグリップで打つ場合は、打点が前になり腕を前方に伸ばす形になるので自然と前腕とラケットには角度が付きます。
厚いグリップで打つ方は「ハンマーグリップ」と言われる握り方をされる場合もありますね。ハンマーグリップでは自然と前腕とラケットに角度が生まれます。
一方、薄いグリップで打つ場合など打点が体に近くなるのに伴い、腕とラケットを一直線に近い状態で打ってしまうとラケットを支えづらくなります。(※ボレーと違いストロークではスイングを伴うので、"支えづらく"なるのではなく"ボールを飛ばすためのラケットスピードを上げられなくなる"というべきでしょうが)
腕の機能を使ってラケットをスイングする、ボールを打つ訳なので フォアハンド、バックハンド、ボレー、サーブ問わず、すべてのショットについてこの「前腕とラケットの角度」があることが重要になるということです。
腕のラケットが一直線になるためには握り方だけでなく手首の角度を調整しなくてはならない
サーブのインパクトで腕とラケットを一直線に近くした状態を取ろうとすると手の平の中でのグリップが当たる位置は腕(前腕)のラインに近い角度になります。
注: 写真はテニスラケットではないですが腕とラケットが一直線に近くなる握り方
また、握り方だけでは角度の維持が不充分なので"ラケットの握り方に関係なく手首の関節を意図的に曲げてラケットの角度を調整しないと" 腕とラケットを一直線に近い角度に保つことができません。
つまり、『インパクトで腕とラケットは一直線になるのが正しい形だというイメージが本来そうなる必要がない形を作っている。スイング中に自分でインパクトの形を調整して作っているということは、ラケットスピードが上がりにくい、安定したスイングができないという要素になる』と言えます。
前述したようにラケットは慣性の法則の影響を受けます。加速したラケットは"元々"直進運動をし続けようとし、それがラケットが動く軌道の安定を産みます。
人が行うべきは、体の機能や仕組みを理解し、リラックスした状態で短い距離で瞬間的にラケットを加速させることです。
短い距離での加速は加速させるためのエネルギーを小さくできます。大きなテイクバックや大きなスイングをする人がいてもラケットスピードは上がらないのは分かると思います。(長い距離を動かすだけでその分のエネルギーを使う) ラケットの性能も向上しているので短い距離で加速させ打つ方が性能を出やすいでしょう。
スイング開始時に手に引かれて動き出したラケットは、加速により速度を得、回転運動の中心である体よりも遠くにあるラケット、特にヘッド側は体や腕が動く速度よりも速くなり、スイング途中で体や腕を追い越します。体を追い越して以降はスイング開始当初にラケットを手が引っ張っていたのとは逆に、先行し慣性の法則で直進し続けようとするラケットの方が手を引っ張る形になると思っています。
つまり、スイング序盤に短い距離でしっかりとラケットを加速させてやれば、速度を得たラケットは勝手に安定した軌道で進んでいこうとするので、スイングの過程で人がラケットを操作し、ボールに近づけよう、ボールに当てようとする操作がラケットの軌道やラケットスピードを遅くする要素になってしまいます。
素振りをしても実際にボールを打ってもスイングは同じになる
人がラケットをボールに当てるという意識を持たない(操作をしない)なら、素振りをしてもボールを打ってもスイング自体は変わらないのは何となくでも分かると思います。
スイングによりラケットが得た運動エネルギーが接触によりボールに伝わり、ボールは速度と回転を得ますが、伝わる運動エネルギーは全体の一部なのでボールとラケットが接触してもスイングは停止したり急激に減速したりしません。
スイングするのはボールを飛ばすためであり、考えるべきは"スイングの完成"、ラケットの速度を上げて運動エネルギーを大きくすること、安定的なスイング軌道を作ることです。
ボールを飛ばし回転をかけるためにはラケットとボールがきちんと当たらないと(接触しないと)いけないわけですが、手や腕の操作でラケットをボールに当てに行くのではなく、スイング軌道と腕を含めたラケット面までの距離を踏まえてスイングをしっかりとフォロースルーまで完成させ、そのスイングの途中、0.004秒の間、13cmの幅(※)でラケットとボールがたまたま接触している (当てにいっているのではないというのが限りなく基本に近い理想)という感じでしょうか。
※計算上、120km/hでスイングするならインパクト時間と言われる0.004秒の間にラケットとボールは"接触したまま"、13.3cm程進む事になります。つまり、打点は"空中にある一点"ではないということです。
鈴木孝男選手のサーブの導入練習の動画
鈴木孝男選手のサーブの導入練習の動画です。ラケットをスムーズに加速させ、ラケットをボールに当てにいく、ぶつけにいくという要素が見られないのが分かると思います。
また、前腕とラケットの角度に注目すると、比較的腕の角度を上げず横振りに近いスイングながらインパクト前後のラケットヘッドは上を向いているのが分かります。つまり、腕とラケットに自然と角度が付く状態でスイングされているということだと思います。当然、意識せずにこうなっているということでしょう。
まとめ
ちょっと説明が難しい内容でしたが、サーブの説明で「サーブのスイング中に頭の横を腕が通過する際、頭に近づきすぎてはいけない。適度に空間ができるようにしなさい。」と言われたことはないでしょうか?
このように腕を真上に伸ばし、頭の横で腕とラケットが一直線になるような状態ではラケットを速く振れないのは感覚的にも分かると思います。
ただ、なぜ、腕と頭を離す必要があり、頭から腕がどの位離れれば、頭と腕の間にどの位の空間ができればよいのかという説明はされないと思います。
単に「見た目が変だからよくないのだろう」という範疇で理解が終わってしまうはずです。
ピッチャーがボールを投げる際のように速くしっかりとサーブで腕を振る、そのスイングでボールを飛ばし回転をかけるなら、腕が不自然に見えるほど上に上がる状態は不適当だし、腕が上がらなければ (腕の伸ばさなければ) 腕とラケットの角度も自然と生まれる。スイング開始時に腕とラケットは角度が付いているのだから無理のまっすぐになるよう伸ばす必要がないといった理解でもいいと思います。
次は『サーブのスイングを行う際の腕と体の位置関係と腕の動き方』について確認したいと思っています。この腕と頭の位置関係は次回に関係してきます。