テニスで一番重要なショットはサーブ
「テニスで一番重要なショットは何か?」と聞かれた場合、各自に思う点はあっても、教科書的な答えで言えば『サーブ』です。
2回連続で入らなければポイントを失い、8回連続して入らないだけで、相手のボールを1度も打つ事なくゲームを失います。
サーブは相手の影響を受けない唯一のショットで、自分が望む速度、回転、軌道でボールを打てる、自分が好きなタイミングで打てるというショットです。サーブを打つ側が圧倒的に有利だというのは常識のように言われます。
リターンができなければゲームにならない
一方、相手が打つサーブを4回リターンできないだけでゲームを失うのにサーブに比べて「リターンは重要だ」という話は殆ど聞きません。
「サーブを打つ側が圧倒的に有利だ」と言われますが、リターンできなければ "単なるサービスエースの取り合い" になってしまいます。
サーブが苦手な人が多い事に対し、よく「サーブは練習時間が短いから上達しないのだ」と言われますが、僅かな時間でもスクールではサーブ練習の時間が確保されるし、ゲーム形式でサーブを試す機会もあります。「サーブは最も重要なショットだ」という認識を練習に反映された形です。
また、サーブが苦手な人は居ても全く入らない人はほぼ居ないです。遅くても何でも入れる工夫を自分なりにするから。サーブが入らなければゲームにならないという意識は皆強く持っています。
他にも、サーブは "教えやすいショット" という面もあります。
自分や周りの人も「サーブは難しい」と思い、なかなか上達しない中でも、
「サーブはこうやって打つのだ」
「こうやるのがポイントだ」
「これが回転をかけるコツだ」
と誰でもコーチのようサーブを語る事が出来てしまいます。
教える事により上達するかどうかは関係ありません。実際、いくらコツを聞きまくっても皆サーブが苦手なままですからね。
上達に結び付かない形で情報だけが独り歩きしているのがサーブの状況だと思います。
リターンを詳しく教わらない理由は?
雑誌やYouTube等のレッスン動画でも『サーブを打つコツ』は溢れていますが、リターンについては基本と言われる事が列記されるのみです。スクールでも同様だと思います。
「打点を前に取る」
「コンパクトなテイクバック」
「スイングをコンパクトにする」
それら言われる内容は"要素"でしかなく"打ち方"は示していないですね。
これは、サーブと比較して、
『リターンというものが分かりづらく説明がしづらいから』
だと考えます。
1. リターンには、サーブのような "見本を見れば分かる一目瞭然感" がない。
2. 相手が打つサーブ速度、軌道、曲がり方・跳ね方、コース等千差万別。限られた時間と状況の中、これが正解という説明をすることが難しい。
という事です。
サーブは自分で上げたトスを自分で打つので、誰がやってもほぼ同じ打ち方になるので「こうトスを上げて、トロフィーポーズをこういう形にして、落ちてきたボールをこうやって打つ」といった説明ができます。
一方、リターンはボールを打つ際の状況が様々です。
同じように見えるフォアハンド、バックハンドのストロークで使われる「打点がここでこうやって打つのが基本」という説明はできません。
速度もバウンドも打つ高さもサーブを打つ人、状況によって違いますし、あのプロ選手がやるように打ちなさい、マネをしなさいという教え方もできません。
テニスの指導で一般的に行われている「"形"を作らせイメージさせる」「誰かのマネをさせる」という手法が使いづらいのがリターンというショットでしょう。
個人的にですが
「時間の無い中、色んな球種を特定のコースに返球できないといけないリターンは、テニスにおける色々な要素が集約されたようなショットなのだろう」
と思っています。
皆、どうやってリターンを打っているのか?
教える側も、自身、感覚的、イメージ的な部分で打っているため、打ち方をうまく表現出来ないという点もあるでしょう。結果、どう打つのかという説明ではなく「打点を前に取れ」「コンパクトにテイクバックしろ」「コンパクトにスイングしろ」といった"要素を上げるのみ"になってしまうのだと思います。
また、一目瞭然な例もなく、どう打てばいいのかという情報も少ない中、『自分である程度打てる自信を持っている"ストロークをコンパクトにしたもの"というイメージ』を持つのは自然な流れだと考えます。そういう表現で指導するケースもありますね。
ただ、ストロークの打ち方は人それぞれです。(※)
※人の身体の構造や仕組みは皆ほぼ同じなので、効率よくスムーズに身体を使う(ボールを打つ際なら腕を振る、ラケットを振る)方法は共通してくるはずです。陸上短距離決勝に出場する選手の走り方が皆個性に富むという事態は起こりません。速く走るという単純な目的の前には効果的・効率的な身体の使い方こそが正解だからです。同じフォアでも個性溢れる打ち方ばかりなのは自身は打ちやすくでもミスの元、威力が出ない理由に十分なり得ます。
自分のストロークのテイクバック、スイングを小さくしたものという認識でリターンをしようと思っても、ボールが到達するまでの距離や速度低下が大きいストロークでは問題なくても、時間がないリターンではストロークの打ち方を踏襲できるとも限りません。
※そもそもストロークの打ち方でリターンがうまく打てないのは時間がない事よりストロークの打ち方に問題があるのかもしれません。ストロークでは打ててもリターンだとその部分が顕著に出てしまうということです。そういう方は打ち合うラリーのテンポや速度が速くなると途端に打てなくなるかもしれません。
また、皆が思う「チャンスがあればリターンで打ち込んでやろう」という意識自体が正しいのかという疑問もあります。
トッププロ選手達はリターンミスをしない
トッププロの(特にダブルスの)試合を見るにリターンミスを殆どしません。
200km/hを超すサーブ、伸長2m超えのビックサーバーのサーブなら、エースやリターンミス、読みが外れることはあるでしょうが、我々がやってしまうような"リターンができない"というミスは限りなく少ないです。
これを「プロ選手は我々より技術(センス)が高いからだ」と考えるのは適当だとは思いません。間違いなくリターンする技術は我々よりも高いでしょうですが、同時に彼らが打つサーブも桁違いにレベルが高いからです。
きっと『我々が考えるリターンとプロが考えるリターンには違いがある』のだろうと考えます。"ストロークをコンパクトにしたもの" とうだけの意識ではないはずです。
リターンに必要な要素を考える
私には指導者でも専門家でもないので「リターンはこう打つべきだ」という話はできません。ただ、リターンに必要であろう要素を考える事は多くの方が出来ると思います。
上げるとすれば次のようなものでしょうか。
1. 飛んでくるコースを判断する、準備をする、スイングをする、それらの時間が総じてない。
2. 飛んでくるコース、速度、バウンド、ボールを打つ高さ、速度低下度等、ボールに関する諸条件が様々違う。(決まっているのは片面のサービスボックス内に着地するという点)
3. 原則、ボールが飛んでくる速度はストロークよりも速い。
4. 状況によっても違うが、原則返球するコース、返球する深さ等の目安を予め決めている。
スイングしないでリターンする例を考える
サーブは総じて相手が打ってくるストロークよりも速度は速いです。
ボールの速度が速いという事は"飛んでくるボールが持つ運動エネルギーが大きい"という事、リターンでも"ブロックリターン"という選択肢がありますね。
例えば、ボレーはスイングしないラケットで飛んでくるボールの運動エネルギーを反発させる事で必要な距離ボールを飛ばすショットです。
ネットに近い位置から打つので必要以上に遠くまで飛ばす必要がない。スイングを行いより遠くまで飛ばすための運動エネルギーをラケットに持たせる必要がない。結果、スイングせず、ラケットでボールを正確に捉える事に集中させています。
スイングをしないで飛んでくるボールの運動エネルギーを効率的に反発させるためには利き腕肩と腕、手 (+ラケット面) が一定の位置関係で並ぶ事が望ましいです。
利き腕肩が身体の前側にあり、腕を軽く曲げた状態で手や足で前方向に物体を押し支えられる状態
こういった状態では強いボールは押し支えられません。
利き腕肩と腕の位置関係を保ったまま横向きを作ればラケット面の強さを残してボレーはできますが(上は身体が正面で腕は横だからラケット面が弱い)、正面を向いてまっすぐ押し支えるよりも当然ラケット面を押し支える力は弱くなります。
やや速度の遅いボールに対し長い距離を飛ばす際等に使いますね。スイングしない分を足の踏み込みでラケット速度を上げる (振るのも、踏み込むのもラケットの前進は同じ) 事でボールを飛ばします。
リターンも準備する時間が限られる中、ラケット面を正確にボールに当て、飛んでくるボールのエネルギーを反発させる事で必要な距離 (具体的にはネットを越して相手コート内に落ちる) を飛ばす事になるので "自分が普段打つストロークのコンパクト版" を考える前にボレーに含まれる要素がどういうものか把握したいです。
最小歩数でボールを押し支える体勢を取るためのスプリットステップ
リターンをする際に必ず行うものが "スプリットステップ" です。
スプリットステップは、相手の打つボールに対する反応を良くする、動き出しのタイミングを取る、ボールを打つ相手の様子に集中しやすくする等のために行う準備であり、意識付けであったりします。
まず、我々が行うスプリットステップにはいくつか問題があります。
テニススクールで「スプリットステップはどうやりますか?」と質問すると皆こういう感じで行うと思います。
ラケットを持った構えの状態からその場で小さくジャンプする感じです。
ここでの問題は
「足裏全体が地面と設置しており、重心は足首側、つまりかかと側に多くかかっている」
という点です。
人間の足首から先の足部分は複数の骨が組み合わさって構成されており、昔の漫画に出てくるロボットのように "平たい板状の物が足首にくっついている" 訳ではありません。
歩いたり走ったり、立っている状況でも身体のバランスを取るために地面に対し色々な足の付き方をします。テニスでも「重心」「軸足」「体重移動」等の言葉でその働きを表したりします。
スプリットステップを行った直後、ジャンプして着地した直後には相手が打つボールに対して動き出す必要があり、動く向きは「前方に向かって」です。
※横方向や後方向にはどう進むのだという疑問に対しては、足の向きを横、或いは後に向け、身体の向きをその方向に向けた状態で「前に向かって」走り出すが答えになります。正面を向いたまま横方向、後方向に進むはごく短い距離で時間的余裕がある時に限るべきでしょう。
着地直後に、前方向に向かって駆け出すためには、着地時に足全体が地面に設置するのではなく、かかとが浮いた足の前側、母指球から指先にかけて地面を強く踏める状態である必要があります。
縄跳びを飛ぶ際、ラダーステップのようにその場で速く足を動かす場合、必ずかかとが上がった状態で着地し、かかとを上げたまま地面を踏み、その反力でジャンプします。
かかとが付いた状態で強く、速くジャンプするのは難しいです。
加えて言えば
スプリットステップを行い着地した後、ボールが飛んでくるのを待つ身体全体が静止する時間が存在すると、スプリットステップは "単なるタイミングを取るきっかけ" でしかなくなります。
スクールでよく見られる前述の両足の裏全体が地面に着き、かかと体重に近い状態になるのは『スプリットステップをして着地した直後に動き出す事を想定していないため』に起こります。
着地した直後、ボールを追って俊敏に駆け出さないといけなければこのような着地にはなりません。スクールでの球出しや相手が打つサーブがそれだけ遅い、待つ時間が発生してしまうという事です。
もし、スプリットステップした後に待つ時間、両足が地面について身体全体が停止してしまう時間が発生してしまうのであれば、そこからもう一度スプリットステップを行う等する事を考えるべきでしょう。想定外に速いボールが来たら当然反応できません。
男子ダブルスを見ると、相手が打つタイミングに合わせて「ピョンピョンピョン」とスプリットステップを繰り返す、スプリットステップとは言えないかもしれませんが両足を交互に踏むような準備動作を行っているのをよく見かけます。
Memphis Tennis 2014
みんラボ 重心のコントロールとフットワーク ”について (3:23~)
リターンにおいても、複数回「ピョンピョンピョン」とスプリットステップを行う中で打っているプロ選手も居ます。
レベルが上がって、速度の上がったサーブをリターンする必要が生じた際も、通常のストロークやボレーを打つ際も、この "両足裏全体を地面に付けてしまうスプリットステップ" を続ける方、"スプリットステップをした後に停止状態が発生してしまう方" はとても多いです。
これもボールの打ち方を "形" で教える弊害だと思います。"見た目をマネる事" と "意味から考える事" は違いますね。
参考: 速く走るための身体の使い方
TVやYouTube等でもよく見かけるスプリントコーチ(速く走る方法を教える) 秋本真吾さんの解説映像です。強く地面を蹴って速く走る要素を説明されています。
スプリットステップ時の歩幅
我々がテニスを行う際、両足の幅(スタンス)は総じて狭い事が多いです。
狭いスタンス幅
普段直立して立っている状態がそうである事から分かるように歩幅が狭い状態は立っていて楽です。
身体の重心の真下に両足があるため、その状態から前後左右、簡単に1歩目を踏み出す事が出来、方向転換がしやすく、動き出すのに大きなエネルギーを使わずに済みます。
下図のような極端に広い歩幅から1歩目を踏み出すには大きなエネルギーが必要となり、常時このスタンスで居るのは適当とは言えませんね。
極端に広いスタンス幅
ただ、強く前方に駆け出す事を考えるなら、身体を前傾させて前側の足に体重がしっかりと乗った状態を取り、足で地面を強く踏めるようにしなくてはならず、そのためには歩幅は必要に応じて広く取らなければなりません。
陸上選手のスタート姿勢
プレイ中以外はともかく、実際ボールを打ち合う機会においては直立状態に近いスタンスの狭さは自覚しづらい問題を起こします。
ボールを打つ準備のためにスプリットステップをした際、歩幅が狭い状態だと、
ボールを追い始めた際に進む側の足 (軸足、図で言うと左足) で地面を強く踏めず、足の力で身体を大きく前に押し進める事ができません。
結果、軸足の位置を身体が追い越して先行していってしまいます。
その後、追うボールに対して身体が前進する距離が足りず、踏み込み足 (図で言うと左足) の踏み込みで不足した距離を稼ぐ進み方になります。
ボレーを教わる際、
「ボレーは1歩で打ってはいけない。必ず、軸足、踏み込み足の2ステップで打ちなさい。」
と指導を受けますね。
ただ、プロ選手のボレーを見ても必ず2ステップで打つ訳ではないし、全く移動せずその場で打つことも多いです。それでも打つボレーはとてもスムーズに見えます。
上記のような注意を繰り返し受けてしまうスプリットステップからの踏み込み足の1歩で打ってしまう方、2ステップで打っているのに1歩で打っているのと変わらない "ぎこち無さ" が出てしまう方は、このような足の使い方になっている事が多いです。
足の動かし方ではなく使い方の問題という事が「2ステップで動け」と繰り返し言われてもうまくいかないポイントになる気がします。
スタンス幅の広さが意識を生み考える機会になる
スプリットステップした際の歩幅、ステップの幅が広ければ即改善されるという訳ではないですが
『プレイ中に歩幅を広く取る意識は、前進する際の意識、重心に対する意識を高める効果がある』
と考えています。
また、意識する事で実際の動きも改善されていきます。どうやって身体を使うと強く、速く動けるのかを考える機会になるからです。
スタンスを意識してスタート時の足への重心のかけ方を意識すれば、1歩目 (図で言えば軸足である左足) の地面への力のかかり方、結果的に移動の速さ、加速度、移動に入る際のバランスの良さなどに繋がると思います。
軸足側に力を込める、体重を乗せる、壁を作る等、色々な表現でこのような状態を指したりします。
リターンで横方向に強く身体を移動させるためには、身体をターンさせて横方向を身体の正面にして膝から足先までを向ける。軸足側の前足部 (母指球付近から指先まで) で地面を強く踏み"前方向" に進むには、ターンさせた際に (陸上選手のスタートのように) 自然と軸足側で地面を踏める分のスタンスの広さが求められます。
なお、皆、自分の身体に合った必要十分な筋力を備えており、それを使い十分な速度の駆け出しや移動ができるはずです。意識の違いだけで特別なトレーニングは不要です。
※体感トレーニングも筋力強化より"身体をどううまく使うかを確認するトレーニング"という気がしています。最初はプルプル震える状態が1-2週間で静止がキープできるようになるのはそういう事じゃないでしょうか。
テニスの指導でもよく「重心を落とせ」「姿勢を低くしろ」 等と言われますが「姿勢を低くし、重心を落とす事で何が変わるのか?」については触れられないですね。
そのため、こういう姿勢で構える方も居たりします。
女性に見られる低い姿勢で前かがみになってしまう構え
足元のボールには多少手が出しやすい気がするでしょうが、腕やラケットの長さがあるのでこの姿勢に"気持ち"以外の大きな意味はないと思います。
ボールをラケット面で押し支える姿勢、歩幅を意識し強く1歩目を踏み出せることでリターンにどう影響するか?
まず、トッププロのリターンを見れば、軸足がボール軌道の延長線上に置かれた状態、利き腕肩、腕、手でラケット面をしっかりと押し支えられる体勢で打っているのに気づきます。
どんなにリターンが上手い選手でも、踏み込み足が先に出た、身体や腕が伸び切った状態では安定した返球は難しくなります。
ただ、トッププロ以外だとこういう体勢でリターンをしてしまう機会が多くなる傾向があります。そういう所がリターンの安定感の違いに出るのだと考えます。リターン技術以前の部分で違いが生じてしまっているということです。
ダブルス: ジョコビッチ・トロイツキ組 vs メクティッチ・ペヤ組
ジョコビッチ選手がめずらしくダブルスに出場した試合の映像です。パートナーは同じセルビアのトロイツキ選手。相手はダブルスプレイヤーのメクティッチ・ペヤ組。
ジョコビッチ・トロイツキ組とメクティッチ・ペヤ組、それぞれのリターンだけに注目して見ると踏み込み足を着いて身体や腕が伸びた状態で打つケースが目立つメクティッチ・ペヤ組に対し、ジョコビッチ・トロイツキ組は軸足がボール軌道の後ろ、ラケット面を強く支えられる体勢で打つケースが多いです。
ジョコビッチ選手はリターンが得意な選手ですし、トロイツキ選手はダブルスも度々出場しますがシングルスでも強豪です。純粋に競合選手のサーブを多く打っている経験がリターン力、そしてシングルスでのランキングに出ているのだと想像します。
軸足と身体、腕、手、ラケット面の関係はリターンに限らない
書いてある内容を見て気づかれるかもしれませんが、ストロークを打つ際も準備段階として「軸足をボールが飛んでくる延長線上に置け」「ボールの後に入れ」と言われますね。
感覚が身につけば理解できるものでも、言葉で言われると「ボールの後ろ?」という感じでしょうが、テニスに限らず、身体の機能や仕組みを使って安定的でスムーズ、高利率的な運動効果を出そうとすれば自ずとやり方は定まってくる。基本的なルールは決まってくるという事です。
ボレーだろうが、ストロークだろうが、リターンだろうが、スイングの有無やスイングの大きさ等は違っていても、足の使い方、身体の使い方、力の込め方、動かし方等は共通していて不思議ではありません。
サーバー方向を向いたままで居たいという意識
リターンは時間の無い中、飛んでくるコースも球種も跳ね方も予測が難しい中打たないといけないので「サーバー側の方向をしっかり見続けていたい」という意識が強く働くような気がします。
そうでなくても厚いグリップで打点を前に取って打つストロークが推奨されている状況なので、ストロークのインパクトにおいて身体全体が目標方向に正対した状態で打つケースは目立ちます。
ただ、最近の男子プロのストロークを見ると、ウエスタングリップ等の厚いと言われるグリップで打つ選手ですら我々がイメージする打点の位置よりはるかに身体に近い位置でボールを捉えているように感じます。
つまり、"横向きを保った状態でボールをインパクトしている"ということです。
その事を示していると思うのがフォアハンドを打つ際の踏み込み足側のつま先の向きです。
ズベレフ選手
ジョコビッチ選手
錦織選手
いずれの選手も
完全にボールを打つ動作が終わった後に左足のつま先が「クイッと」向きを変える
のが分かるでしょう。
テニス以外の事例ですが、野球において
「ピッチャーもバッターも相手に胸を見せてはいけない。最後まで胸を見せないようにしないといけない。」
と言われているそうです。
ピッチャーなら、ボールを投げるギリギリまで横向きを保った状態で投球した方がボールに威力が出ます。(速く身体が回転するとバッターにボールの出処が見えやすいという欠点も)
バッターなら、身体が回りきってしまうとバットを持つ手も前に出てしまっており、その状態ではボールを打つチャンスがありません。横向きを保ち続ける限り、バットは身体の後方にあり、ボールを打つチャンスが残るという事です。バントを打つ際も身体をピッチャー方向に向けてしまうとうまく打てないそうです。
テニスでも
「身体を開くな」
という指導がありますが、単なる見た目の印象だけでなく同様の事を指しているのだと思います。
端的には、
「身体(肩)体を速く開いてしまうとボールを捉えられる幅が狭くなり、ポイントが合わないとうまくラケットに当てられない、肩が開く事で身体を回転する力が非利き手側に逃げてしまい、スイング速度が遅くなってしまう等の欠点が出る」
といった事がマイナスと考えられます。
ただ、対策としては一般的に思い浮かぶ
「身体が回転するのを意識して抑える」
といった手法ではなく、今回挙げたような
「足先やスタンスから身体の軸、回転、重心、足の付き方まで身体の使い方からどういう違いがあるかを考える事」
の方が効果に繋がるのだろうと考えます。
身体を開くな、肩を開くなと言われて、腕の意識は身体の向きを意識してもボールを強く打つ意識、ボールを打つことに一生懸命になって注意された点は分からなくなってしまいますよね。
リターンと身体の向きの関係を考えるなら、曲がって逃げていくスライスサーブをリターンする際、身体をサーバー方向に向けたまま横に動いてボールを拾おうとするのではなく、軸足に体重を乗せて、きちんと横向きを取り、身体に対して前方向になった横に向けてボールを追う。利き腕肩と腕、手、ラケットの位置関係を保ち、"横向きを保ったまま" リターンすべき方向にスイングする、ラケット面を向けていくという形の方が思ったようなリターンはしやすいかもしれません。
スプリットステップから一歩目を横方向につま先と膝を向け、スタート切れば自然と身体は横方向が前(正面に)なります。
サーバー方向を向いた姿勢のまま、カニ走りで横移動し、正面向きのままリターンをしようとすれば 意図しなくても "バギーホイップ" 型になります。
相手のサーブが予想より速度があった場合、こういう体勢でリターンしてしまう方、正面向きのまま喰い込まれた形で前に飛ばせない方は少なくないのではないでしょうか。
打点を前に取るという意識が足りない訳ではなく、スプリットステップからの1歩目に問題があるのかもしれません。
スプリットステップで着地した次の瞬間、ボールを追う方向に身体、膝、足先を向け、軸足、前側の足、最初に踏む側の足に体重をかけて、母指球から指先にかけて力を込めて地面を蹴り、強くダッシュする。
距離と歩数によるが強くダッシュした後に、打点付近に到着した際、スタートとは逆に、かかと側から地面に触れ、柔軟に柔らかく速度を低下させる。正常な横向き状態で準備ができるなら、踏み込んだ足を軸足として打つ準備に入る。
といった形がリターンの要素となってくるかと思います。
ただ、このかかとが浮き足先側で強く地面を蹴る (加速) とかかと側から着地し速度を調整する (減速) を区別できず、ボールを追う一歩目からかかとから着地して走り出す方も多いのです。
そうなるとボールを追う意識とは別に身体は前進しない、全くボールに追いつけない、おいついても十分な姿勢で打つ準備が出来ないという事に繋がります。
でも、見た印象だけだと「追いつけていないな」といった程度で理由は分かりません。
ナダル選手の練習風景
プロ選手がボールを打っている様子を見れば "常にかかとが浮いた状態にある" のが分かります。かかとが着くのはボールを打つ際の軸足側を決めて打つ準備に入る際、その際はかかと側から着地して停止のバランスを調整します。
「かかとをずっと浮かしておくなんて大変そう」と思ってしまいますが、かかとを浮かす意識を持っているのではないでしょう。
構えの状態、スプリットステップにおける重心の位置とスプリットステップ後の動きだし、ボールへの反応を考えると自然と足先側に力が入りやすい姿勢を取っているという事なのだと思います。
縄跳びに慣れている人なら長い時間飛び続けるのは苦ではないでしょう。飛んでいる間はずっとかかとが上がった状態で足先だけで着地とジャンプを繰り返しています。これと同様の事かと思います。
余りまとまっていないけど"まとめ"的な事
サーブはゲームができる程度には皆上達します。
プロ選手のような速度や回転は難しくても、練習によりダブルフォルトを繰り返すような事は無くなるでしょう。まぁ、ゲームができる位には上達するという事です。同じレベルの相手とゲームをやる中で相手に取りづらいサーブを何かしら工夫したりもできます。
一方、リターンは練習する機会がない、打ち方も情報がないという中、皆、自分のストロークのイメージ、ストロークをコンパクトにしたイメージで打っていたりします。弱いセカンドサーブなら強打して決めてやろうという意識を持っていたりもします。
ただ、準備時間の短い中、多様なコース、速度、バウンドに対応しないといけないリターンでは、時間的余裕があるストロークでは見えなかった"打ち方自体の課題" が成功率、思うように返球できるか等に現れてきます。
うまくリターンできない事が"リターン技術"の問題という訳ではないということです。
そもそもリターン技術ってどういうものが正解か分からない訳で何を練習すればいいのかも分からない状況でしょう。
テニスでは「形を作る」「打ち方をマネする」といった見た目からイメージを作らせる指導方法が一般的ですが、プロ選手がボールを打つ"動画"を見て"全体の図"ではなく"各部の要素"を見比べる事で、今回で言えば "リターンに必要な要素" が考えられたりします。
且つ、その要素は、人間の持つ身体の機能や仕組みの効果的な使い方に基づくものなので全てのショットで共通してくるものです。考えていくほど理解が深まり、どうやってボールを打つ (身体を使う) のが望ましいのかを考える機会になります。
その繰り返しが上達に繋がるのだろうと思います。
なんとなくストロークのイメージでリターンを行い、うまくいかないなぁと思うより、必要な要素からどう打つかを考える方が根拠もありイメージは湧きやすいのではないでしょうか。
当然、どういうやり方が望ましくないのかも考えられ、周りの人のリターンを見た際にそういった点に気づく事もあると思います。(相手の理解なく助言をするのも難しいので周りを見て気づいた点は自分の上達に活かすのが良いと思います。)