今更ですが、ニコロズ・バシラシビリ選手について (テニス)

 

今更ですがニコロズ・バシラシビリ選手

先日のドイツ国際で、ニコロズ・バシラシビリ選手がアンドレイ・ルブレフ選手を7-5, 4-6, 6-3で破り大会連覇しました。

急上昇中の新人という訳ではないですし、かなり今更なのですが、ここ数年で活躍が目立ってきたバシラシビリ選手について書いてみたいと思います。

ニコロズ・バシラシビリ選手は1992年2月23日生まれの現在27歳。

ジョージア共和国のテニス選手です。

ご存知の方も多いかもしれませんが、ジョージア共和国は以前グルジア共和国呼ばれていた国。2015年の在外公館名称位置給与法改正で日本における表記及び呼称が変更されました。(確かジョージア出身の力士の方が居ましたね。)

バシラシビリ選手は5歳でテニスを始めています。父はバレエダンサー、母はお医者さん、ご兄弟が1人おられるようです。英語、ジョージア語、ロシア語が話せるそうです。

憧れのプレイヤーはナダル選手とフェデラー選手。年齢的に妥当でしょうか。

また、夢の対戦相手はマラト・サフィンさんだったそうです。

2013年にご結婚されています。

愛称は「Basil」だそうです。植物の「バジル」ですね。

Basilashviliは英語だと「バジラシビリ」と聞こえるのでそう言われると違和感がないです。

ジュニア時代はほぼ無名でジュニアグランドスラムへの出場もないようです。

プロ転向は2008年ですが、2015年、23歳の時まで表舞台に名前が出てきません。(2007年~2011年までカリフォルニアでトレーニングしていたようです)

2015年にATP250以上の大会で本戦入りするようになり、全仏オープンでグランドスラム大会本戦に初登場します(1回戦でコキナキス選手に負けています)。

同年のウィンブルドンのベスト32入りでシングルスTOP100入りを果たし、2016年にオーストリア、2017年にアメリカで準優勝、そして今回優勝したドイツ、ハンブルグオープンで初優勝しています。ジョージア選手としては初のATPタイトルでした。

ブレイクしたのは去年2018年、いわゆる遅咲きの選手なのでしょう。

2019年7月30日現在でシングルス通算3勝。シングルスランキングは16位です。

 

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バシラシビリ選手と言えば

外見で分かるようにあごひげがトレードマークという感じでしょう。

2015年時点で既に今と変わらない風貌です。

2015年USオープン (ラケットはスピードを使っていますね。)

2015年上海

2016年から途中からウエアがハイドロゲンに変わります。(シューズはそれ以前と変わらずナイキ)

去年まで契約していたので、私の中のバシラシビリ選手の印象は「ドクロマークのウェアとヒゲの選手」でした。

ハイドロゲンはフォニーニ選手やボレッリ選手と契約していたり、今年からフェリチアーノロペスと契約したり (後ベルディヒ選手) と彫りの深い、髭面の濃い顔とかが好きなのかも。

2016年の全豪オープン1回戦ではフェデラー選手と対戦していますが、

憧れの選手の一人なためかかなり動きが "硬い" 緊張している印象ですね。でもこの頃を見ても後述する今の"強い"プレイスタイルに通じるものを感じます。

今年からウェア、シュースともロットに変わっています。

同社契約のダビド・フェレール選手が引退されるのに合わせ、

似た印象のバシラシビリ選手が広告塔としての後任という感じなのかもしれません。

でも、ハイドロゲンのドクロマーク(胸とハチマキ)とあのヒゲの組み合わせに威圧感があった分、見た目のインパクトが弱まった感じはあります。

 

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バシラシビリ選手のプレイスタイル

シンプルに言えば「クレバーなテニス」「ボールが強い」です。

Basilashvili Rules Again In Hamburg | HIGHLIGHTS | ATP

今年のハンブルグ決勝ハイライト。対戦相手のルブレフ選手も負けづらいで「強く打ちあう」分については "たいがい" な選手なのですが「とにかく強打、常に強打」タイプのルブレフ選手に比べ、「常にクレバーでスマートなプレイをしつつ打つボールは強い」といったプレイスタイルなのがバシラシビリ選手の特徴です。

試合を通して安定感があり、一発狙いのようなギャンブルをしない、ここぞというタイミングできっちりと強いボールをコーナーに打つ、相手の決めにきたボールを切り替えして取らせずポイントといった点の取り方ができる選手だと思います。

バシラシビリ選手はフォアもバックも「強いボール」を打つのですが、個人的に見ていて感じるのがかつてのある選手のプレイ。

その選手は、フェルナンド・ゴンサレスさんです。

Fernando Gonzalez Huge Shots!

ゴンザレスさんに通じる共通点

ゴンザレスさんは「ビックフォアハンド」とか言われた強力なフォアハンドが武器で、片手打ちバックハンドと合わせて印象の強かった選手。元世界ラインキング5位です。

バシラシビリ選手と風貌が似ているのは偶然かもしれませんし、クレイコート等でプレイする以上、レジェンドであるゴンザレスさんに通じるテニスは誰しも身につけるようなものなのかもしれません。

ただ、「ビックフォアハンド」とそのフォアハンドで打つボールの強さだけがピックアップされたゴンザレスさんですが、映像を見ていただければ分かると思いますが、実際の所は

「ベースライン後方でじっくり構えてボールが飛んでくるのを待って強打」

というケースは多くはなく、

「ベースラインに近い位置で、短い時間でしっかりと準備し構え、相手ボールがバウンドした直後をバチンと叩いて打つ」

といった理にかなった打ち方をしているからあれだけの威力が出せている部分も大きいと思うのです。

ボールを飛ばすエネルギー源はラケットだけではない

ボールを飛ばす回転をかけるためのエネルギーはおおまかには

1) 速度を持って飛んでくるボールのエネルギーを反発させる
2) 自ら加速させたラケットのエネルギーをボールに伝える

の2つです。

時間の無い中、飛ばす距離が長くない、遠くまで飛ばす必要が少ないボレーは1のボールの持つエネルギーを重視したショット。自らトスしたほぼ速度ゼロのボールを打つサーブは2のラケットのエネルギーで打つショット。ストロークは打つ位置と状況により、1と2を組み合わる、割合を変えて打つショットと言えるでしょう。

ボールやラケットが持つ運動エネルギーの大きさは

『1/2 x 重量 x 速度 ^2 (2乗)』

で表され、打つボール、手に持つラケットの重量は固定ですから、インパクト前後のボール速度、ラケット速度が速いほどそれらが持つ運動エネルギーは大きいと考えられます。

我々は「ライジングで打つ」という事を "曖昧に認識している" 場合が多いと思います。

ボールはバウンドによる地面との摩擦で大きく運動エネルギーを削がれ、バウンドの頂点は重力に逆らって上がる、更にエネルギーを削がれる地点なので、落ちてくるのを待って打つより頂点に達する前に打つ方が、相手コートまでの距離も短くなり、スイングで同じエネルギーを発生させてもボールのエネルギーが多く残っている分、強いボール、回転のかかったボールを打てる可能性がある。また、ボールを打った相手が打ち返されたボールに対する準備時間を短くできる要素もある。

といった事なのでしょう。

ライジングショットの代名詞的存在の伊達公子さんは、バウンド直後の早い段階のボールを非常に重いラケットを利用して回転を少なく、前の位置で打つことでボール速度がそんなに速くなくても (極端なライジングを大きなエネルギーを発生させる、大きなスイングや強いスイングで打つのは難しい) 相手は「返球が早くて追いつけない」と感じる

といったものだと考えます。

相手の時間を奪うのか、ボールのエネルギーを飛びや回転に使うのか等が曖昧なままだとその特性をうまく使えないという事です。(バウンド直後をできるだけ早く打とうとしているのに大振りでうまく当たらない。逆に当てるだけになってしっかり飛ばせない等)

バシラシビリ選手のストローク

ゴンザレスさんは少し大雑把な性格ではないかと想像します。エースに拘ってカウンターの一発狙いみたいなミスがケースも多かったと記憶しています。それが安定的に上位進出できかった理由でもあるのでしょう。

バシラシビリ選手のテニスがクレバーだと書きました。

ベースラインに近い位置でボールのエネルギーを利用し、早いタイミングで強いボールを打つことで相手は追いつけないといったテニスを多用しますが、一発で決めるのはあくまでその機会を得る手順を踏んだ上でという点がゴンザレスさんとの違いといった印象です。

きっちりラリーで展開を組み立てますし、ポジションを下げずに返球する事で相手にもプレッシャーをかけ続けてミスや甘いボールを引き出そうともしている気がします。

必要以上に下がらず、高い位置をキープし、早いタイミングで打つため常に早い準備をし、姿勢を落とし両足で地面を強く踏み、最小限のスイングで強いボールを打ち続ける。

Basilashvili Stops Del Potro for 2nd Title | Beijing 2018 Final Highlights

打つボールの強さだけでは勝てない、勝ち残れないのが男子テニスです。逆にテクニックやクレバーさだけでは勝ち残る前に負けてしまいます。

簡単に「総合力」と言うのはそれらを適切に表せていないでしょうが、フェデラー選手、ナダル選手、ジョコビッチ選手。勝ち続けるビック3達を見てもその意味は感じられると思います。

バシラシビリ選手のスタッツ的な数字

バシラシビリ選手の2018年のスタッツ (プレイ上の数値データ)を錦織選手との比較で見てみましょう。

サービスエース数は年間236。これは錦織選手と変わらない数字ですが、ダブルスフォルトは273と錦織選手の倍近くあります。

サービスゲームキープ率は76%で錦織選手が81%です。

リターンゲームのブレーク率は21%に対して24%です。

全体的な数字を見ても錦織選手の方が堅実で負けないテニスをしている印象を受けます。

その一方、(球質の違いを覗いても) 打つボールの威力を見てもバシラシビリ選手の方が強いですし、ダブルフォルトの数を見てもバシラシビリ選手の方がより攻撃的にプレイをしようとしている

それと同時にそれをやっても一定のゲームキープが出来る地力があるという事だと想像します。

数字とプレイ内容が一致していますね。

また、クレイ、芝、ハードとコートサーフェス問わず同じような数値が出ているのも選手としての特性、バランスの良さ、対応力の高さを表しているのかなと思います。

得意不得意なく同じような形でプレイできているという事なのでしょう。

 

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コーチの存在

それまで予選常連だったバシラシビリ選手が2018年にブレークしたのはコーチの存在も大きいようです。

インタビュー等でもたびたび述べています。

Basilashvili And Jan De Witt A Winning Partnership

コーチのヤン・デ・ヴィットさんはドイツの方で、シモン選手、モンフィス選手、伊藤竜馬選手等をコーチしていた経歴のある方です。(シモン選手の後、バシラシビリ選手のコーチに)

バシラシビリ選手の性格は一言で言えば「完璧主義者」で、航空関係が趣味 (テニスプレイヤーにならなかったらパイロットになりたかった) という事でも分かるように才能豊かな人でもあるようです。「アーティストだ」といった評価もあります。

ヤン・デ・ヴィットコーチは

「私は完璧主義の扇動者ではありません。私は超精密になることを望むという評判を受けている事を理解しています。でも彼は違います。シンプルな手順で複雑でない試合運びをする必要があります。彼は本当に物事を完璧にするのが好きで、且つそれを周りに簡単に見せたいと考えるので "勝つことに苦労している" のです。」

と言われています。

www.atptour.com

バシラシビリ選手はジュニア時代から才能のある選手だったようですが、資金面と周りに適切な指導をしてくれる人がおらず、22~23歳位までプロ選手としての自覚がなくプレイしてしまっていたようです。

 

この辺りが "遅咲き" である理由にもなっているのでしょう。

バシラシビリ選手のインタビュー

バシラシビリ選手のインタビューです。

2016年ウィーン (ちょっと若いし緊張している感じ)

2018年ハンブルグ

話している様子を見ても落ち着いており、気持ちに左右されて試合中に無理をするタイプには見えないですね。

その一方、強い闘志、背負っているものみたいなものも感じます。

シングルス順位を見ても、グランドスラムを含めた主要大会の結果を見ても、ビック3の健在さは相変わらずで、それ以外のベテラン勢が徐々に下降していっている。

その代わりに新しい選手達、実力のある中堅勢がランキングを上げてきている。

その中堅勢の一人がバシラシビリ選手という感じでしょうか。

(今時点で勢いを保っている中堅~ベテラン勢は錦織選手の他、フォニーニ選手とバシラシビリ選手、イズナー選手位?)

試合中に観客にアピールするようなプレイをする訳でもなく、派手さはなく淡々に勝っていくような選手ですが、試合内容は見ていて常に面白い、興味を引く強さがあるのでこれからも注目の選手だと思います。